こんにちは! 即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」でデータサイエンティストをしている林勝悟といいます。
2024年5月に第38回人工知能学会全国大会(以下、JSAI2024)が静岡県浜松市で開催され、全国の大学や企業の研究者が一堂に会し、AIに関する研究発表が行われました。

Visionalグループは当学会に協賛し、株式会社ビズリーチから業務の一環として開発したマーケティングAIに関する研究発表やスポンサー展示を行いました。
本稿では弊社の研究発表や興味深かった研究について紹介いたします。

会場の様子
図1:ポスター発表会場の様子。JSAI2024の現地参加者数は約2,900名と大賑わいでした。
ビズリーチブース
図2:弊社のスポンサーブースの様子。お越しになった方々にビズリーチロゴ入り「PAPABUBBLE」のキャンディをプレゼントしました。

ビズリーチのマーケティングAIの研究発表

「ビズリーチ」は人材マッチングプラットフォームであるため、現在はマッチングのレコメンドが主なAI技術領域になりますが、それ以外にも自然言語処理や検索など多様なAI技術を扱っています。 マーケティング部署の担当者と連携しながらマーケティングAIの開発も行っており、JSAI2024では 「経過時間を考慮したZILNモデルによる顧客生涯価値予測」 というタイトルでポスター発表を行いました。

ここで、顧客生涯価値 (Life-Time Value; LTV) とは、あるサービス上で顧客から得られる価値の合計を指します。ビズリーチでは会員様の転職時の理論年収の一定割合を転職先企業様から報酬としていただきます。 その報酬を会員様からの売上とみなしてLTVを算出することで、カスタマーアクイジションやプラットフォーム内でのマッチングに活用することができます。

LTV予測モデルとして Google の研究者らが提案した Zero-Inflated Log-Normal (ZILN) モデル [Wang 2019] が存在します。 ZILNモデルはLTVの予測を行う際に、算出期間 (ビズリーチでは会員登録からの経過時間) を固定する必要がありますが、実際の運用では短期的な施策や長期的な戦略のためにLTVの算出期間を変更したい場合があります。

そこで本研究では、LTVの算出期間を自由に変更できるようにZILNモデルを拡張した Time-dependent ZILN (td-ZILN) モデルを提案しました。 td-ZILNモデルでは、売上発生確率は経過時間とともに増加し、ある一定の値に収束すると仮定して (図3) 、その増加の仕方をニューラルネットワークで学習します。 この提案手法により、過去の様々な期間のLTVデータを学習データに含められるようになったため、ビズリーチの過去の売上データを用いた評価実験でも予測精度を向上させることに成功しました。

提案手法のアーキテクチャ
図3:提案手法のアーキテクチャ。登録からの経過時間を考慮できるようにZILNのモデルを拡張しました。
ポスター発表
中江によるポスター発表の様子

興味を惹かれた研究発表

ここからは、数ある発表の中で、個人的に興味をもった発表を一部紹介させていただきます。

【3Xin2-44】 順序回帰における精緻なラベルのデータとクラス粒度の粗いラベルのデータを組み合わせた学習手法

著者 (敬称略) :齋藤 慎一朗、田原 琢士
所属:Sansan株式会社

順序回帰において、分類対象の順序ラベルに加えて、粒度が粗いラベルが訓練時に利用可能な設定を考えます。
例えば、分類対象のラベルが「10代未満」と「10代」であった場合に、「未成年」が粗いラベルに相当します。
粗いラベルは形式が異なるため、単純には学習に用いることはできません。そこで、本研究では粗いラベルを特定の確率分布に基づいてソフトラベルに変換し学習に用いることで、予測精度を向上させる手法を提案しています。
社会ではしばしば年齢や年収をラベルとして表現することが多く、ラベルの粒度が異なる調査が混在することもしばしばあるため、実用的な研究だと感じました。

【4Xin2-50】 一般化少量データ意味領域分割における破滅的忘却を防ぐ

著者 (敬称略) :坂井 智哉、勝木 孝行、Qiu Haoxiang、恐神 貴行、井上 忠宣
所属:IBM東京基礎研究所

画像のセグメンテーションを行う意味領域分割において、学習済みの分類モデルと新しいクラスの少量データが与えられたときに、学習済みの分類モデルを新しいクラスも分類できるように追加学習することを考えます。
単純に新しいクラスのデータで学習済みの分類モデルの追加学習を行うと、既存クラスの分類精度が落ちてしまう (破滅的忘却という) 恐れがあります。
そこで、本研究では新しいクラスと類似する既存クラスのみに絞って新規クラス分類モデルを新たに訓練することで、破滅的忘却を防ぎながら追加学習を可能とする手法を提案しています。
この手法は非常に直感的でありながら、これまでにない新しい視点が興味深かったです。

【2L6-OS-19b-05】 最悪重み摂動付加ニューラル分類器の汎化誤差上界の見積法

著者 (敬称略) :磯部 祥尚
所属:産業技術総合研究所

ニューラル分類器の重みに微小な摂動を加えることで分類結果を誤らせることができます。このような微小な摂動に対してどれだけニューラル分類器が強いかを評価することを考えます。 既存手法では無作為に選択された摂動が用いられていますが、実用的にはあまり精度が高くありません。
そこで、本研究では無作為な選択と勾配法による探索を組み合わせることで、実用的で精度が高い評価を行う手法を提案しています。 ニューラル分類器の安定性を評価するために実用性の高い研究だと感じました。

さいごに

私は2016年からJSAIに参加していますが、今年は協賛企業、参加者ともに過去最多となり、活気にあふれ、人工知能に携わる様々な方々と交流できる貴重な機会となりました。弊社ブースにも大変多くの方にお立ち寄りいただき、ありがとうございました。
マーケティング業務の改善のために現場の担当者と連携しながら作り上げた弊社の研究に関して、たくさんの方々にポジティブなフィードバックをいただいて、さらなる技術開発のモチベーションとなりました。

ビズリーチではこれまで培ってきた多様で膨大な自社データを使い、マッチングや検索、マーケティングなど様々な領域でAIを開発し、お客様の本質的な課題解決に取り組んでいます。 実用的なAI開発や研究発表に興味がある方は、ぜひこちらのカジュアル面談フォームからご連絡ください。お待ちしております!

林 勝悟
林 勝悟

2021年に京都大学で機械学習をテーマとして博士課程を修了。その後、企業で自然言語処理の研究を行う。2023年1月より株式会社ビズリーチに所属し、データサイエンティストとAIプロダクトオーナーを務める。プレーリードッグやクオッカなどのもふもふ動物に目がない。