新規プロダクトや大きな機能のリリース、大規模リニューアルなど、長い時間かけて行うプロジェクトは少なからず発生します。 みなさんは、そのようなプロジェクトのふりかえりは上手く行えていますか?また、オンラインでのふりかえりはどのように行っていますか?この記事では、長期間のプロジェクトに対するふりかえりの方法を、どのように準備して行なっていったかをご紹介します。
今回のふりかえり会の全体像
今回のふりかえりではmiroを用いて下記の流れで行いました。それぞれのプラクティスの内容については、前編で説明しています。
ふりかえり事前会アジェンダ
- 参画時期の共有(プラクティス1)
- 起こったことの共有(プラクティス1)
ふりかえり本会アジェンダ
- 本日のチャレンジ宣言(アイスブレイク)
- 良かったこと、気になったことを共有(プラクティス1)
- インタビュー×3(プラクティス2)
- 課題の狙いを定める(プラクティス3)
- OST形式による課題の深掘り(プラクティス3,プラクティス4)
- Next Actionを定める(プラクティス5)
- ふりかえり会のふりかえり
以下の画像のようなmiroボードを用意しました。画像内の丸数字は、上記のアジェンダの数字と対応しています。
今回は前編と後編の2回に分けて、どのようにふりかえり会の準備・設計を行ったのか紹介します。
- 前編…背景としてのプロジェクトの状況説明と、その状況に適したふりかえり方法のプラクティスの選択について
- 後編…プラクティスを実際のふりかえり会に落とし込む際の工夫と、実際にやってみた感想について
チーム分けを考える
前編でお伝えしたプラクティスを用いる際、「参加者全員だと人数が多い」「様々なロールの人が集まっている」「メンバー間で知っていることの差が大きい」という状況であるため、議論を参加者全員で行うことが難しいと考えました。そこで、人数やメンバー構成について考えることにしました。
ワークの人数を考える
オンラインでのふりかえり会は、オフラインでのふりかえり会以上に、下記の理由からグループワークの人数設定を考慮する必要があります。
- 他人の言動の観察が難しくなるため、発言したいと思っている人を把握しづらくなったり、会話のお見合いが発生し、無言になるケースが多くなる
- 隣のグループの状況が見えないため、ファシリテーターによる複数グループの同時観察&フォローが難しくなる
この考えと、今回のふりかえり会の目的1「チーム全体の共通認識を持つ」を両立させるため、下記の方針でチーム分けを考えました。
- 全体で共有をする場面では、小さなグループには分かれず、チーム全体で同じ付箋を見る
- 議論をする場面では、3人以上5人以下のグループに分ける1。
チーム構成を考える
今回のふりかえり会の目的1では「チーム全体の共通認識を持つ」と定めました。 しかし、今回のふりかえり会は開発者・SRE・QAというロールの参加者がいます。そのロールを混ぜて、全ての事実内容について共通認識を持つことは、今回は難しいと判断しました。ただし、ふりかえり会の後半に行う課題の議論はチームを混ぜて行うことが可能だと考えました。
今回のワークにおけるチーム構成を考える
以上の適正人数とチーム構成の考えを元に、メンバー構成について下記4種類を使い分けることにしました。
- 個人ワーク…個人でワークを行う。
- 同一ロール内ワーク…それぞれのロールごとに1つのグループを作りワークを行う。全体共有の場面で活用
- 同一ロール内グループワーク…それぞれのロールごとに、3人から5人の小さなグループを作ってワークを行う。同一ロール内の話題で議論したい場面で活用
- ロール混合グループワーク…さまざまなロールを混ぜて3人から5人の小さなグループを作ってワークを行う。プロダクト全体の話題で議論したい場面で活用
今回の場合、それぞれのアジェンダで下記のようなグループ分けにしました。
- 参画時期の共有…同一ロール内ワーク
- 起こったことの共有…同一ロール内ワーク
- 本日のチャレンジ宣言…個人ワーク&同一ロール内ワーク
- 良かったこと、気になったこと共有…同一ロール内ワーク
- インタビュー×3…同一ロール内グループワーク
- 課題の狙いを定める…個人ワーク
- OST形式による課題の深掘り…ロール混合グループワーク
- Next Actionを定める(プラクティス5)…個人ワーク
- ふりかえり会のふりかえり…個人ワーク
グループワークの構成を考える
今回のプロジェクトの課題「長期間のプロジェクトであり、人も固定されていなかったため、知っていることの差が激しそう」を解消するために、同一ロール内グループワークで行う「インタビュー」のプラクティスでは、グループ構成を事前に検討しました。
その場でグループを決めてしまうと、グループ全員が最近参画した人となってしまう可能性があるため、必ず1人は初期からプロジェクトに参加していた人にしました。
また、初期からいた人がプロジェクトの全てを知っているわけではないので、3回に区切ってグループの入れ換えを行う形にしました。その結果、以下のようなグループ分けをしました。(数字はプロジェクトに参画した順番)
時間構成を考える
ここまでのプラクティスをすべて行うと、全部で3時間を超えるふりかえり会となってしまいます。 そこで、下記の2点の工夫をしました。
- ふりかえり事前会と本会の2回に開催を分ける
- 1時間に1回は休憩を入れる
ふりかえり事前会と本会の2回に開催を分ける
「1. 参画時期の共有」と「2. 起こったことの共有」は、本会の前日までに事前に行いました。 これにより、当初は連続3時間のふりかえり会だったものが、30分+2時間半のふりかえり会になりました。
それにより、下記の2点のメリットがありました。
- 「プロジェクトで起こったこと」を事前会で思い出せなかったとしても、本会までの時間に思い出すことができる
- 参画時期の共有を事前会でしてもらうことで、本会に向けてのグループ構成を予め考えておくことができる
1時間に1回は休憩を入れる
オンラインの場合、他の人の目があまり無い分、長時間の集中が難しいです。そこで、1時間に1回を目安に休憩を入れるようにしました。
アイスブレイクを考える
ここまでで、ふりかえり会の骨格はほとんど作成完了しました。最後に、ふりかえり会の本会のアイスブレイクを考えることにしました。
今回のように30人を超える大人数でふりかえりを行うと、どうしても「よく発言する人」と「あまり発言しない人」が出てきがちです。人間の性格上、どうしても発言量の差は出てきてしまうものの、この発言量の差は少なくしたいと考えていました。
そこで今回は、「発言量の差が出てしまう」という問題を解消するようなアイスブレイクである「本日のチャレンジ宣言」を採用しました2。
「本日のチャレンジ宣言」とは、普段の自分は行うことができていないことを付箋に書き出し、今回だけチャレンジするというものです。
例えば、以下のようなものがあります。
このアイスブレイクにより、下記の効果が期待できます。
- 普段喋りすぎる人は抑えめになり、普段喋らない人は積極的に喋るようになるため、発言量の均一化が期待できる3
- 意識して発言するようになり、普段よりも多彩な議論ができる
- もしもチャレンジ宣言が守れていなかった時に、他の人から「本日のチャレンジってなんだったっけ?」と指摘できる(「もっと発言してよ/抑えてよ」と指摘するよりも、指摘する際の大義名分ができる)
その他の細かい工夫
以上により、ふりかえり会の設計が完成しました。 その他の細かい工夫として、下記のような取り組みも行いました。
- オンラインは無音になりがちなので開始前や休憩時間はBGMを入れる
- 記載場所に迷いが生じないように、miroのフレームを活用する
- やり方に迷いが生じないように、具体的な例を最初に提示する
- 付箋を書くことに集中し、誰でも最低1つは付箋を書けるように、付箋を書き出す時間と書いた付箋を共有する時間を明確に分ける
開催結果と参加者の感想
開催した結果は以下の図のようになりました。
会の最後に「ふりかえり会のふりかえり」と題して、参加者に自由に感想を書いてもらいました。下記のような感想をもらいました。
- 楽しんで参加できた
- 初めて3時間近くの長丁場のワークで集中力が持続しきった気がする
- プロダクト全体として課題を考えることができたのが良かった
- 参加した他のチームのところをチラ見できるのが楽しかった
- 立場によってプロジェクトの捉え方がかなり違うと感じた
- 普段、どのように考えているのか分からなかったりしてたので、それを知ることができて良かった
- 参画したばかりで話し合いに参加できるか不安だったけど、考えを示すことができたので良かった
おわりに
今回は長期間のプロジェクトにおけるリモートでのふりかえり会でのチーム構成と時間構成の考え方を紹介しました。
ここで押さえておきたいポイントは下記の3つです。
- オンラインで行う場合、沈黙が発生しやすく、他の人/グループ/チームの動きが見えづらいので、人数構成には特に気を付ける
- 議論を行うワークの場合は、3人以上5人以下を目安にグループを作成する
- 目的に合わせたチーム構成を考える
- 長時間のワークとなると集中力が保てなくなるので、休憩を入れたり別日に分けたりした開催を検討する
今回のプロジェクトの状況は読者の皆さんと全く同じ状況ではないため、全く同じプラクティスができるわけではないと思います。
ただし、上記のポイントや前編で記載したポイントはどんなプロジェクトの状況でも考えるべき点だと思いますので、これらのポイントを押さえながら皆さんもふりかえりを行ってみてください。