このブログで紹介しているSODA構想はプロダクト組織の成熟度を高め、経営判断を下すための材料を可視化するアーキテクチャであり、事業成長を促進することができます。一般的なプロダクト組織に有効な SODA Prototype と、それをビズリーチ向けにテーラリングした SODA BizReach があり、また、航空機の計器類に相当する ((SODA)) Evidence Viewer などの具体的な例を紹介していきます。全3回(前編・中編・後編)の後編。

前回のブログでは

ビズリーチでは、プロダクト組織が進むべきゴールに向かうための「計器飛行」を実現すべく、その土台となるSODA構想(SODA : Software Outcome Delivery Architecture)を進めています。

前回の「中編」では、ソフトウェア開発の生産性指標を正確に測定することは難しいものの、「State of DevOps Report」と「LeanとDevOpsの科学 [Accelerate]」によって、高パフォーマンスチームと低パフォーマンスチームの行動様式の相関関係が明らかになり、開発チーム自身がその行動様式を改善することができること述べました。また、これによって開発チームは自己管理が可能となります。

最後の「後編」では、「計器飛行」のもっと具体的なイメージと、Accelerateアプローチ以外にも目を向けていきたいと思います。

計器を見ながら「次はどうする?」

「計器飛行」の真髄は、パイロットが計器(数値)を見ながら「次はどうする?」と考え続けることです。

プロダクト組織で言えば、開発チームがパイロットの役割を担います。プロダクトの指標を見ながら、常に「次はどうする?」と考え続けます。そして、経営者が航空管制官の役割を担い、計器を見ながら適切なサポートを提供することもあるでしょう。

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ボーイング787のグラスコックピット Brandrodungswanderfeldhackbau, Public domain, via Wikimedia Commons

上の写真はボーイング787の「グラスコックピット」です。

グラスコックピットとは、次のような特徴があります。

多数の計器や警報灯類を、「姿勢・速度・高度などの飛行情報」「雷雲、現在位置などを示す航法情報」「エンジンやシステムの作動状況」に3分類して統合し、ブラウン管や液晶モニターに必要なものを、必要に応じて表示させるようにしたコックピット(操縦席)。航空機関士が不要になった。ハイテク・ジェット旅客機、ビジネスジェット機に装備。 (鳥養鶴雄 元日本航空機開発協会常務理事 技術士(航空機部門) / 2007年) 出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」

プロダクト組織の計器飛行を実現するためには、あらゆる情報(計測データ)を一元化し、「グラスコックピット」を作れるぐらいの組織マネジメント力を手に入れる必要があります。

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ビズリーチ用グラスコックピットを作ることで計器飛行を実現する

これを実現するための土台となるのが SODA構想 です。

SODA(Software Outcome Delivery Architecture)構想

SODA(Software Outcome Delivery Architecture)とは、計器飛行実現のためのプロダクト組織設計思想です。

大まかに言って以下の7点を実践出来るようになる、または改善出来ると考えています。

👉🏻 SODA構想の実践で手に入る組織ケーパビリティ

  1. プロダクト開発チームのエビデンスデータを見える化できる
  2. すべてのプロダクトにFour Keysの計測を定着させ、改善サイクルを作れる
  3. プロダクトごとにアウトカム指標を見極め、計測できる
  4. プロダクトごとに有意な品質指標を見極めフィードバックプロセスを増やし、プロダクト品質を向上できる
  5. プロジェクトごとに有意なマネジメント指標を計測し段階や例外によるマネジメントを行えるようになる
  6. プロダクトに関するナレッジベースを作成しSECIモデルができる
  7. 上記すべてが継続的に実践できるようになる仕組化を手に入る

私の30数年間のエンジニア経験をベースに、普遍的なものとモダンなものとを統合させ、 時代に合った「計器飛行」の仕掛けを、プロダクト組織に作り込めるよう 設計してみました。

ブログ中編で述べた Accelerateアプローチは、開発チームの自己管理にとても有用であることは間違いありません。ただし、Accelerateアプローチは「組織的能力」の一部なので 内向きの指標 とも言えます。

プロダクト組織としては、プロダクトのアウトカム(お客様の本質的課題解決)や品質の定量的計測を中心とした「市場価値」も計測し、Factデータを元にマネジメント出来るようになる必要があります。

そこで エビデンスベースドマネジメント(EBM) と呼ばれるガイドを参考にすることにしました。

エビデンスベースドマネジメントガイド(EBMガイド) | サーバントワークス株式会社

エビデンスベースドマネジメント(EBM)は、Scrum.orgが提唱する経験主義に基づいたマネジメントと計測フレームワークです。EBMは、ソフトウェア開発の価値を計測し、改善するためのガイドラインです。EBMには、4つの重要価値領域(KVA: Key Value Area)とそれぞれのKVAに対する重要価値指標(KVM: Key Value Measures)が定義されています。

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EBMガイド 2020 より引用

「計器飛行」実現の「仕組み」を集めた SODA Prototype

SODA (Software Outcome Delivery Architecture) 構想は、プロダクト組織が経営判断を下すための材料を可視化し、状況把握や課題発見を助け、事業の成長とプロダクト開発の相関関係を見いだす「計器飛行」を実現するためのアーキテクチャです。これを SODA Prototype と呼びます。

SODA Prototype は、ビズリーチ以外のプロダクト組織にも適応可能であり、必要なオブジェクト(フレームワークやナレッジ)を集め、その関係性を整理し図式化したものです。8つのドメインで構成されており、ひとつひとつのドメインが広く深いオブジェクト(フレームワークやナレッジ)で構成されています。プロダクト組織に仕掛けをインストールする際は、組織に合わせてテーラリングする必要があります。

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SODA prototype ver.03. 10
# ドメイン オブジェクト(フレームワークやナレッジ)
1 Core プロダクトの世界観
・Mission / Purpose
・Vision
・Value
2 イノベーション創造モデル 継続的にイノベーションを起こす仕組み
・SECIスパイラル
・Scrum
3 ソフトウェア開発プロセス 継続的に良質なアウトプットを出す仕組み
・ソフトウェア工学
・DevOps
・Agile Software Development
・Agile Testing Quadrants
4 プロジェクトマネジメント 継続的に開発チームのQCDSをマネジメントする仕組み
・PMBOK
5 プロダクトマネジメント 継続的に顧客アウトカムを達成する仕組み
・事業戦略
・Automation
・ユーザーストーリーマッピング
・Mobius Loop
6 プロダクト品質マネジメント 継続的に適切な品質を達成する仕組み
・TQM(Total Quality Management)
・QA2AQ(Quality Assurance to Agile Quality)
・SQuaRE
・狩野モデル
7 プロセス改善マネジメント 継続的に実験を繰り返しFactデータをもって検証できる仕組み
・SPI
・Accelerate
・Management 3.0
・EBM(Evidence Based Management)
・CMMI
8 プロダクト組織マネジメント(事業経営) 継続的にビジネスとベネフィットが達成する仕組み
・マネジメント論
・組織開発
・人材開発
・PRINCE2
・Team Topologies

「仕組み」から「仕掛け」に転換した SODA BizReach

次に、上記のSODA Prototypeを元に、ビズリーチに合わせてテーラリングを行いました。テーラリング後のSODA Prototypeを SODA BizReach と呼ぶことにします。

SODA BizReachは、今後プロダクト組織の成熟度に合わせて仕組みを変えていく必要がありますが、現在は以下のような構成で考えています。

図では、中心にプロダクト開発チームを据え、そこから周囲の要素と矢印で繋がっています。これは、プロダクト開発チームがすべての中心であることを表しています。

開発チームは自ら計測したFactデータを検証し、「仮説と実験」を繰り返すための仕掛けを提供します。

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(参考) [https://slide.meguro.ryuzee.com/slides/78](https://slide.meguro.ryuzee.com/slides/78) 吉羽龍太郎さん「カイゼンの基本」の図を変更

また、SODA構想は6つのプロジェクトの相互作用で成り立たちます。これは SODA Prototype を「仕掛け」すfることと同等で、このプロジェクトを実施することで、SODA BizReach が動き始めます。

# プロジェクト名 概要 期待される効果
1 ((SODA)) Evidence Viewer プロダクト開発チームのエビデンスデータを見える化する 至るところで計測が進みエビデンスデータが集まり始めたとしても、それらをうまく情報放射(ラジエート)しなければ透明性が高まったと言えない。必要なデータのフィルタリングとビジュアライズが鍵となる。そのため、BIツールを利用してデータの透明性向上を目指す。
エビデンスベースドマネジメント(EBM)と呼ばれるガイドを参考にこれを組織に実装する。
2 ((SODA)) Team Performance すべてのプロダクトにFour Keysの計測を定着させ、改善サイクルを作る 「LeanとDevOpsの科学」で有名なDORA(DevOps Research and Assessment: Google Cloud)の Explore DORA’s research program や State of DevOps Reports に基づき、Four Keys の計測並びにチーム・ケーパビリティの測定を行いソフトウェアプロセス改善の輪を回転させる。
3 ((SODA)) Outcome Delivery プロダクトごとにアウトカム指標を見極め、計測する Four Keys の計測だけでは「組織的能力」の一部しか測れないためプロダクトのアウトカムや品質の定量的計測を中心とした「市場価値」(=アウトカム)も計測し、Factベースのマネジメントが出来るようになる。
エビデンスベースドマネジメント(EBM)と呼ばれるガイドを参考にこれを組織に実装する。
4 ((SODA)) Quality Value プロダクトごとに有意な品質指標を見極めフィードバックプロセスを増やし、プロダクト品質を向上させる プロダクトの客観的な品質状態を知ることができる。そして、品質メトリクスを利用することで技術的な対策やプロセス改善の効果が測定可能となる。
5 ((SODA)) Project Value プロジェクトごとに有意なマネジメント指標を計測し段階や例外によるマネジメントを行えるようにする プロジェクトの客観的な状態を知ることができる。QCDSが狙い通りにコントロール出来ているかが分かり、定量的に分析することで対策が可能となる。
6 ((SODA)) Playbook プロダクトに関するナレッジベースを作成しSECIモデルを作る プロダクト開発を成功に導くエンジニア向けの、ナレッジベース・サイトをNotionで構築する。プロダクトの成功に必要な体系だった知識、各プロダクトのグッドプラクティスや実績を集約し、マネジャーなどが活用可能なナレッジを集約する。

冒頭の「グラスコックピット」の実現は、上の表の#1 ((SODA)) Evidence Viewer プロジェクトです。これは「グラスコックピット」同様に、ビズリーチが保有する膨大なデータを可視化することで、迅速かつ正確な意思決定を支援することを目的としています。今回は、市販のBIツールをベースに ((SODA)) Evidence Viewerの仕掛け作りをはじめています。

(画面はペーパープロトですので、実物とは異なります。数字はダミーです)

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((SODA)) Evidence Viewer のイメージ図1(数字はダミーですよ)
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((SODA)) Evidence Viewer のイメージ図2(数字はダミーですよ)

社外の反応

SODAはビズリーチのために考えた構想ではありますが、弊社以外のあらゆるプロダクト開発組織でも応用できる組織アーキテクチャをイメージして作りました。経営層の承認をもらっての活動ではありますが、社外の有識者やエンジニアからSODA構想を見たときのフィードバックが欲しいと考え、去る、2023年1月11日、御茶ノ水ソラシティカンファレンスセンターで開催された Regional Scrum Gathering Tokyo 2023 にて発表してきました。

講演資料と資料のTwitterでの反応、発表時の動画をリンクします。

Regional Scrum Gathering Tokyo 2023 発表

2023年1月11日に行われた「Regional Scrum Gathering Tokyo 2023」の登壇資料
2023年1月11日に行われた「Regional Scrum Gathering Tokyo 2023」の発表ビデオ

非常に好評だったと思います。SODAの内容も共感してくださる方が多く、一安心しました。

発表の反応(Twitter)

「エセ自己組織化」症候群から脱却し、約束を守るプロフェッショナルなアジャイルチームになるには -アジャイル時代のマネジメント進化論- 発表資料の反応

おわりに

さて、ここまで全3回に渡りプロダクト組織が進むべき未来(ゴール)に向かうための「計器飛行」を実現するための、SODA構想(SODA : Software Outcome Delivery Architecture)について解説しました。

SODA構想はまだまだ道半ばでありますが、少しずつ実績を積み上げています。これまでの経緯と実績、そして今後については4月18日から開催される DevOpsDays Tokyo 2023 で発表もいたします。宜しかったらご拝聴ください。

DevOpsDays Tokyo 2023

Hiroyuki TAKAHASHI (高橋 裕之)
Hiroyuki TAKAHASHI (高橋 裕之)

Visional / BizReach Software Engineer, SPI Coach, Agile Coach, Certified Scrum Professional® — Product Owner, Certified Scrum Professional® — ScrumMaster, Management 3.0 licensed facilitator.