はじめに

本記事は、2026年6月8日(月)・9日(火)に開催されたカンファレンス「AI Engineering Summit Tokyo 2026」の参加レポートです。株式会社ビズリーチAI Product Studioでソフトウェアエンジニアをしている小室です。私はDay 2となる6月9日に現地参加しました。

参加の目的は大きく3つありました。1つ目は、AI駆動開発という変化の速い領域で他社がどのような仮説検証を重ねているのかを知り、自分たちの現在地を確かめることです。2つ目として、当社CTO外山のセッションを聴き、私たちが目指すビジョンを再確認したいと考えていました。そして3つ目は、純粋な興味です。

本記事では、参加者同士の交流スペース「エンジニアのしゃべり場」での体験、ビズリーチの登壇セッション、そして特に印象に残った2つのセッションをご紹介します。

AI Engineering Summit Tokyo 2026とは

AI Engineering Summit Tokyo 2026は、ファインディ株式会社が主催するAIエンジニアリングのカンファレンスです。「AIエージェントを使う・創る・推進する」をテーマに、浜松町コンベンションホールで2日間にわたり開催されました。公式サイトによると申込者数は4,000名を超えたとのことで、AIエージェントというテーマへの関心の高さがうかがえます。

ビズリーチは本イベントにスポンサーとして協賛し、Day 2にはCTOの外山が登壇しました。

会場入り口のスポンサーボード
会場入り口のスポンサーボード

「エンジニアのしゃべり場」で現場の課題感を語り合う

会場には「エンジニアのしゃべり場」というスペースが設けられていました。カンファレンスで生まれた疑問や気づきを自由に語り合える場で、話したいテーマをホワイトボードに書き込むと、1回30分・1日3回の枠で参加者同士がそのテーマを語り合う形式です。予約は不要で、気軽に参加できます。

エンジニアのしゃべり場の案内ホワイトボード
「エンジニアのしゃべり場」の案内ホワイトボード

私はここで、HRテック企業のエンジニアの方とAI活用の取り組みについて意見交換しました。私が過去にHITL(Human in the Loop。人間がワークフローの中に入り、都度判断や承認を行う形態)のワークフローで経験した課題感を共有したほか、組織にAIをどう浸透させていくか、AI時代にエンジニアへ求められる役割の変化とどう向き合うかといった、お互いの組織に共通する悩みについても語り合いました。所属は違えど、共感できるポイントがいくつもありました。

セッションでは語られない現場の肌感覚を生のままエンジニア同士で交換し、自分たちの現在地を確かめられるのは、オフライン参加ならではの価値だと感じます。

ビズリーチの登壇 - HITLからHOTLへ、AI実行をどう統治するか

Day 2の12時すぎ、当社CTOの外山が「AI駆動開発が変える、大規模開発の前提 〜Human in the LoopからHuman on the Loopへ〜」と題して登壇しました。

セッションの出発点は「AI駆動開発はすでに一般化した。その次に来るのは何か」という問いです。harness(AIエージェントが正しく・速く・安全に動くための実行環境やガードレール、検証ループといった「足場」)をどれだけ整備しても、それだけでは限界があります。人間がフローの中で判断・承認を行うHITLの構造のままでは、人間が律速点であり続けるからです。

そこで提示されたのが、人間がループの外から監督するHOTL(Human on the Loop)へ移行するための統治モデルです。ルールを定める「立法」、ルールへの適合を判定する「司法」、実際に実行する「行政」を分離する、三権分立の考え方が示されました。

さらに、ルールとチェックのつながりを機械可読にして、「書かれている」ルールを「効いている」状態に変える、グラフによる統治の構想と実践も紹介されました。

他のセッションや他社エンジニアとの会話を通じて各社が模索する現在地を肌で感じた上で改めて外山のセッションを聴くと、手前味噌になりますが社内にいるだけでは見えていなかった私たちのHOTLへの取り組みの先端性を自覚できました。グラフによる統治のような挑戦的な取り組みも含め、統治課題の解決に向けてさらに取り組んでいきたいという意思を、私自身も再確認できたセッションでした。

▼当日の発表資料はこちらで公開していますので、ぜひご覧ください。

印象に残ったセッション

数多くのセッションの中から、自分の課題意識と特に重なった2つをご紹介します。どちらも「AIをもっと使う」の先にある、組織と評価の話です。

メルカリ - エンジニアとPdMの役割再定義

株式会社メルカリ 執行役員CHRO兼CAIO兼CTO Japan Businessの木村俊也氏による「AI時代における開発組織とは〜エンジニアとPdMの役割再定義〜」は、AI前提の開発に向けて役割と組織を再設計する試行錯誤を共有するセッションでした。

着目されていたのは、PdMとエンジニアの間に生じるSpec(仕様書)の翻訳コストです。Specの完成を待つリードタイム、意図と読み取りの齟齬、仕様変更のタイムラグ。これらを解消するため、「エンジニアがAIと協働してSpecを書き、そのまま開発に使う」という仮説を検証しているそうです。1名のPdMと数名のPdE(Product Engineer)からなる小規模チーム「AI Pods」を組み、PdMは市場調査や課題発見といったDiscoveryに集中する体制が紹介されました。答えはまだ出ておらず実験中だと率直に語られていたのも印象的です。

エンジニアが価値にフォーカスして仕様を策定するときの仕様品質の課題は、私自身も現在進行形で苦労しているところで、大変共感しました。Specの質はブレると認めた上でテンプレートやガードレールで補っていく、開発組織そのものを対象にした仮説検証の進め方からは、参考になる知見を数多く得られました。

Asterminds - 「AIで開発し、AIを届ける」をEvalでつなぐ

Asterminds株式会社 共同創業者・CTOの加賀谷諒氏による「『AIで開発し、AIを届ける』をEvalでつなぐ ーAIネイティブに始めるプロダクト開発の実践」は、Eval(AIの出力や行動が正しいかを評価する仕組み)をAIプロダクトだけでなく開発ワークフローにも適用する実践の紹介でした。

特に刺さったのは、ローカルでAIに作業させて人間がその場で直してしまうと、成果物は良くなる一方でワークフローの失敗が覆い隠され、観測しにくくなるという指摘です。AIの出力を手元でつい直してしまった経験、皆さんの現場にも心当たりがあるかもしれません。セッションでは、こうした失敗の覆い隠しを防ぐために、明確なNGを機械的に止めるGateと、曖昧な品質を文脈に沿って判定するJudgeを分離し、実ブラウザで動作とAI出力の妥当性を確認するAIブラウザQAなどで「受け入れ可能性」を設計するというアプローチが語られました。

ローカル実行ではHITLの介入によってワークフローの失敗が隠れてしまう——これは、私自身がHITLで開発を進めていた時に突き当たった課題そのものでした。成果物の品質を上げるために人間がその場で修正してしまうと、AIやワークフロー自体の問題が見えなくなり、改善すべき対象を見失ってしまいます。

そのため私は、対策は人間が都度介入して直すことではなく、基準や検証をループの中に組み込み、人間はその結果を監督するHOTLへ移行していくことにあると考えています。今回のセッションで語られていたGateやJudgeによる評価設計は、まさにその方向性と重なるものであり、強く共感しました。

また、実ブラウザでAIの振る舞いまで検証するAIブラウザQAについても、AIをより深く信頼して任せるための重要な仕組みだと感じました。自分たちが目指している統治の考え方とも通じる部分が多く、取り組みの方向性に対する確信を深められるセッションでした。

まとめ

参加前に掲げた「自分たちの現在地を確かめる」という目的に対して、得られたものは大きかったです。各社が「AIをもっと使う」の先にある統治・組織・評価という問いに向き合っていることを肌で感じました。そして、自分たちが取り組んでいるAIによる統治機構の仕組み化が、最前線で交わされている議論と同じ方向を向いていると再確認できたことは、素直に自信になりました。

最後になりましたが、このような学びと交流の場を作ってくださった運営の皆さま、登壇者の皆さま、ありがとうございました。

ビズリーチのAIへの取り組みに興味を持っていただけた方は、ぜひ採用ページもご覧ください。

ビズリーチでは、新しい仲間を募集しています。

お客様にとって価値あるモノをつくり、働く環境の変革に挑戦する仲間を募集しています。
募集中のポジションやプロダクト組織の詳細は、ぜひキャリア採用サイトをご覧ください。

ビズリーチ採用サイト
小室 優作
小室 優作

株式会社ビズリーチ AI Product Studio室のテックリード。AI駆動開発の仕組みづくりに取り組んでいる。グルメ・歴史・人文社会が好き。